悪役令嬢の初恋

 ――えっ?

「今、なんて?」
 
 クロエは顔を上げ、迫る。
 ルイスは自分の失言にようやく気づいたようで、瞬時に顔を赤くした。

「いや、その……」
「誤魔化さないでください。はっきりとこの耳に聞こえました。それはどういう意味ですの?」
 
 クロエは、今までにしたことのないほど積極的にルイスに迫った。
 
 もしかしたら――という期待に体は抗えなかったから。

「んん」とルイスは顔を朱に染めながら咳払いをすると、深呼吸をする。
 幾分落ち着いたのか、いつもの穏やかな目つきに戻っている――まだほんのりと顔が赤いが。
 
 そうして決意を乗せた表情でルイスは、真っ直ぐとクロエを見つめた。

「それは、クロエ。貴女が私の心をとらえて離さない唯一の女性だからだよ」
 
 ルイスの告白に、先ほどのは違う衝撃がクロエを襲う。
 
 固まってしまうのは同じだが、哀しみや痛みはないし、それどころかふわふわして一歩踏み出せばその場にしゃがんでしまいそうになるものだ。
 
 心が騒いでいる。
 まるで体中から花が生まれ、咲き乱れている気分になる。
 
 たったこれだけの台詞で今までの哀しみがどこかへ飛んでいってしまったが、まだ聞きたいことがある。
 
 その返答次第でまた奈落の底へ落ちてしまうのだ。素直に喜ぶのはまだ早い。