悪役令嬢の初恋

 二人が会場に戻って、クロエは一人きりでバルコニーに佇む。
 
 腰が抜けてその場に座り込んでしまいそうになるのを必死に耐え、柵に体を預ける。
 
 気がつけば、金色の輝きで辺りを照らしていた月は薄雲に隠れていた。
 今はキラキラ棚引かせる河川の波も闇に染まり、なんとも心細い光景が広がる。
 
 まるで今の自分の心のようだ――
 
 クロエたった今、自分を優しく照らしていた月を無くした。
 
 ルイスを――
 
 力強い日の光で人々を照らす太陽のようなアロイスより、包み込むような柔らかな光の月のようなルイスがクロエは好きだった。

(思えば当たり前だわ。ルイス様は誰にでもお優しい。それはわたくしにだってそう。ルイス様にとってわたくしは他の令嬢と同じ存在なのだわ)
 
 数ある女性の中で彼は見つけたのだ。自分が照らし続けたい女性を。
 それが今の令嬢なのだ。
 
 視界がかすみ、それが大きく揺れるとポロリと滴が頬に流れる。
「いけな……っ、お化粧が崩れて……っ」
 ハンカチを出すも、もう限界だった。