悪役令嬢の初恋

「何を照れているのかな? 私には恥ずかしくて言えないこと?」

「あの」「その」と何度も同じ言葉を吐き出していくうちに、クロエの顔は真っ赤になっていく。

「……わたくしだって、もう十八……その、恋を、したいのです」

「あっ」と声を上げルイスは気が利かなくて済まないというように頭に手を当てた。
 そんな何気ない動作も、クロエにとっては胸をときめかせるばかりだ。
 
 ――ここで言わなくては。今がいい機会だもの。
 
 二人っきりのバルコニー。
 舞踏会の喧噪はガラス戸に締め切られている。
 向こうの声もこちらの声も聞こえない。

「だ、だからわたくしも……ソレンヌ様のことばかり、気にかけていられない、と……」
 
 ――どうか、気づいて。
 
 クロエは心の中で願う。

「そうだったね、クロエだってもう婚約者くらいいたっておかしくない。お相手は父上であるエイブリング侯爵が探しているのかな?」
「おそらくは……でも、わたくしは残りの人生を添い遂げられる方を……自分で、選びたい……」
「さすがクロエだ。自分の意見をしっかりと持っている」
 
 ――遠回しでは駄目。
 
 ――彼は私は、自分の意見を言える令嬢だと思っている。

(なら……)