悪役令嬢の初恋

 ――だからこそ、孫のクロエにも相当厳しくマナーを教え込んだ。
 それは孫の将来の為を思ってのこと。

(……お祖母様、不安だったのでしょうね。わたくしがお祖母様似だったから)
 
 醜女ではないが、どうしても見劣りしてしまう顔立ちに。
 
 だからこそ、他に取り柄ができるよう習い事や作法にダンス、ありとあらゆるものを習い、完璧に習得した。
 そして「開かれた教育を」と、新しく開校した学び舎にも入学した。
 
 そうなると、どうしても周囲の令嬢の足りない部分が気になってしまう。
「こうすればもっと綺麗な立ち姿になるのに」
「あの方は歩き方を変えれば、歩く音が五月蠅くなくなるのに」
「髪飾りのあの色は今日の会食では禁色のはず」
 等など……
 
 別に自分が恥になるわけではない。
(だって、ねぇ……勿体ないのよ。皆さん恵まれた顔立ちをしていらっしゃるのに、いえ、そうでなくても所作一つで美しくなるご令嬢たちがたくさんいらっしゃるのに)
 
 こう考えて、また一つ溜め息を吐く。
(こういう小姑ぽいところがなのに、いけないわ)
 
 でも『人の欠点を上げつらねして周囲の笑いものにする』というのは、全くのでたらめだ。
 
 注意はしたけれど笑いものにした覚えなどない。むしろ周囲に悟られないようにソッと言うことのほうが多かった。
 結局、相手が大げさに頭を下げるものだからばれてしまうのだけれど。
 
 ふぅ、とまた溜め息。
「溜め息ばかり吐いて、幸せが逃げてしまうよ」