悪役令嬢の初恋

 ちょっと荒々しくガラス戸を閉めたけれど、以前よりも八つ当たりが少なくなったようでよかったとクロエは思う。

(それにしてもどうして私が、王太子妃候補だったような言い方をしたのかしら?)
 
 確かに自分の父は現国王陛下の重鎮で門閥貴族だ。
 閥族のクロエと彼とは幼い頃から顔見知りで、兄妹のような関係だ。
 まだ彼の婚約者が決まっていなかった頃、代理でパートーナーをしていたくらいで恋愛関係になったことなどない。

(もしかしたら陛下と私の両親との間で、そのような話があったのかしら?)

  自分が王太子妃に選ばれたら、おそらく家門と国の名誉にかけて王太子妃としての責任を全うしようとするだろう。
 
 けれど――アロイスとの間に愛が育まれるといったら首をかしげてしまう。
 
 今の今まで、二人の間に婀娜めいたやりとりなど発生したことなどないからだ。

(……それに、私の容姿は見栄えがよくないもの)
 
 クロエは扇を閉じ、そっと自分の頬を撫でる。