悪役令嬢の初恋

 疑問詞を浮かべて見つめてきたクロエに、ソレンヌは勝ち誇った笑みを見せ、会場へきびすを返す。
 バルコニーのガラス戸前でいったん止まり、ソレンヌは口を開いた。

「知っていて? 『悪役令嬢』は誰がいいだしたのか?」
「それは大衆で人気の小説の話ではありませんか?」

「そうよ。今では貴族の間でも流行っていますでしょう? ……あれね、わたくしが『この話の令嬢はクロエ様と似ておりますね』って口を滑らしてしまったの。だってとても似ているのですもの。挿し絵もさることながら『人の欠点を上げつらねして周囲の笑いものにする』っていうところが」


「……存じておりました。なのでご心配なきよう」
 
 驚くのだろうと思っていたのか、それとも動揺するのかと。けれどクロエはすべてを悟っているかのように淡々と返してきたのにソレンヌは腹立たしかったのだろう。

『美しく優しくかつ気高く』と繕っていた彼女の仮面が剝がれた。