「この国の王太子妃になっていずれ王妃になる……憧れていたけれど、わたくしがなるとは思わなかったわ。もっと相応しい方が大勢いたでしょうに。――貴女のように」

「冗談が過ぎますわ」
 クロエは驚きつつ、否定する。

「アロイス王太子様は、わたくしのことは親しい友人の一人でございました」
 そう、友人の一人だった。

 ソレンヌといるといつも声をかけてきて、二人の間に入ってきたアロイス。
 自分とアロイスは幼なじみで、小さい頃から顔見知りでよく遊んだ仲だ。だからその延長線沿いで話しかけてきてもおかしくはない。
 
 けれど――思えば、彼が学園内でしょっちゅう声をかけてきたのは、ソレンヌと話したかったのだろう。
 
 花園の乙女とも月の女神とも呼ばれた彼女とお近づきになりたい者は、男女問わず大勢いた。
 アロイスは自分にも平等に話しかけてくれたが、それは王族の一人としての、臣下の娘の一人として接していたのだろう。

「貴女はこの国の作法も完璧で、語学も堪能、王家の補助をするための勉強も完璧だったわ」
「そのようなことは、やる気さえあれば後からでも習えばできることです。ソレンヌ様だってこの国にいえ、アロイス様に相応しい妃になろうと努力なさっている。今のソレンヌ様は努力がその身について誰よりも輝いて見えます」

「貴女にそう言われると頑張ったかいがあったわ」
 ソレンヌが扇を広げ嬉しそうに笑う。