私も慌てて彼女に謝る。

「ううん! 私こそごめんなさい。急に声を掛けちゃったから」
「コハル、怪我はないか」

 近づいてくる低い声音にハっとして振り返る。
 リューは眉間に深く皴を寄せていて私は大きく首を振った。

「私は全然! この花は私が彼女に持ってきてってお願いしたの。だから、急いで持ってきてくれたんだと」
「アマリー! 何をしているの!?」

 騒ぎを聞きつけたのだろう廊下の向こうからローサたちが慌てた様子で駆けてくる。
 ローサはこの惨状を見ると青い顔をして頭を下げた。

「大変失礼いたしました! 今すぐにコハル様のお召変えを」
「急ぎなさい」

 そう短く告げたのはリューの後ろに控えていたセレストさんだ。
 その眼鏡の奥の無表情がとても恐ろしく感じた。

「は、はい! 直ちに!」
「陛下は先に謁見の間に」
「わかった。コハル、待っているぞ」

 そうしてリューは水たまりを避けながらセレストさんと共に廊下を進み、私はローサたちに連れられ自室に戻ることになった。
 振り返ると、メイドさんたちが廊下に散らばった花を片づけ始めていて、その中でアマリーは俯いたまま、小刻みに震えていた。