ふっと落とされたそれは水面を揺らし、彼の苦々しい表情をかき消す。

「私が到着した時、ローマンと彼女はいました」

 ”彼女”が人質のことだと理解したコルネリアは、胸がきゅっと締め付けられる思いがする。

「彼女は何も言わず、静かに彼に腕を掴まれた状態でいました。叫ぶこともなく、私に助けを求めるわけでもなく。ただ、身を任せていた。その瞳はこちらをじっと見つめていました」
「え……?」

 そう、コルネリアはそこで違和感に気づく。

(クリスティーナ様のお話では、リュディーさんが駆け付けたときには人質は亡くなってたって……)

 彼女の言いたい事を理解したように、リュディーは浅く頷いてコルネリアのカフェオレを追加する。
 再び沈黙が訪れる。
 彼女の視線を感じながら、カフェオレを淹れ終わると、一言彼は言った。

「王女殿下は知りません。真実を、知っているのはレオンハルト、私、そして国王だけです」
「どうして……」
「王女殿下と人質の彼女は仲が良かったからです。まだ十代の身には酷すぎる話だからと、私達が伏せたのです」

 何が彼らに起こったというのだろうか。