桜が咲く季節になると思い出す。

あれは、もう10年くらい前になるのだろうか。

まだ新米教師だった俺に告白してきた女の子。
生徒との距離感が分からなかった俺にとって、余計な気を持たせてしまったという妙な罪悪感が残っている出来事だ。

今はあの時に勤めていた学校を辞めて、別の私立の学校で教師として働いている。

あの子は元気にしているのだろうか。










3月も終わりに近づき、春めいた季節になってきた。
今日は、来月から着任する新しい先生の紹介がある。
生徒たちより、一足早い先生同士の顔合わせだ。

顔合わせは職員室でするらしく、既に職員室には多くの先生が新入り教師を今か今かと待っている。

4月から始まる授業の準備をしながら待っていると、一人の女性が職員室に現れた。

「失礼します。4月から養護教諭としてお世話になります」

若い女性だった。
よく見ると見覚えがあるような…
だけど、まじまじと顔を見ても思い出せない。

「桜木芽玖です。よろしくお願いします」

その名前に聞き覚えがあった。
あっと思い出した瞬間、あの重苦い記憶が鮮明によみがえる。
向こうは自分に気づいていない様子だ。