パンデミック・イン九州①



”その”ニュースはこの日、テレビ各局からさりげなく報道された。

『…中学生・高校生がごく狭い範囲で、短期間に相次いで自殺するという事態は、北九州一帯を中心とし、ここ1か月間に九州全土で多発していることが今回、文部科学省と厚生労働省の調べで明らかになりました。 ー中略ー …事態を重く見た政府は、地元警察の情報提供を得て、この数年、全国でも若年層の連鎖自殺が増加している現象と併せて、その根本原因の精査・究明を急ぎ、国を挙げて連鎖自殺の根絶へ、全力で取り組む姿勢を示しています…』

野坂奈緒子は夕方、自宅のテレビから流れるこのニュース報道を食い入るように観ていた。

”おそらく国は、連鎖自殺の規模があまりにも大きいため、うちの女子生徒が言ったようにパニックを恐れて報道を控えさせていたんだろう。あえて、既に今社会問題になっている東京西部とかの中高生の連鎖自殺現象とリンクさせてるんだわ”

まず、奈緒子はとっさにそう確信した。
さらに…。


***


”…この報道なら、全国的に一気での大騒ぎはないでしょうね。警察からの聴取で概ねの自殺者数は把握できてるはずなのに、どこの局も数は伏せていたし…。たぶん深刻な数字なんだろう…”

”パンデミック”…。
彼女の脳裏には、自然とこの言葉が舞い降りていた。

”…昨日、学校の屋上にいた女生徒の九州に住むいとこからの話では、地元の学校はすでに実質パニック状態みたいだってことだわ。おそらく文科省はそれを察知して調査に乗り出したのよ。少なくとも生徒間では、開けずの手紙による呪いだという認識で周知されてると思うから、国にも噂の範疇としてはその現象を掌握してるはずだ。…鬼島の呪いは、やはり、くびれ柳を排除するだけでは根絶できなかったんだわ…”

この時点で彼女は”結論”に到達していた。
しかし、その延長で現役の一高校教師でしかな野坂奈緒子は、どうしても胸の内でざわめく、ある葛藤を停止しきれなかったのである。
それは…。