私は、秘密の場所から駆け出す。
 私から離れれば、エディルはすぐに騎士団でも上位になることが出来る。
 たぶん、だからこそ私の守護騎士を辞したかったと、エディルは言ったに違いない。

 そして息を切らせて、部屋に飛び込むとカーテンにくるまった。
 エディルに触れられた唇が、ジンジンと熱を持ったみたいにしびれている。

 その後、父に呼ばれて冷たい目で「なぜ、こんなことをしたシルフィーナ」と責められたことも、家中の雰囲気が変わってしまったことも、私にはたいして重要なことに思えなかった。

 エディルから、距離を取って、その不遇な運命から守って見せる。
 夜遅く、ようやくベッドに潜り込んでも、眠くはならなかった。
 その代り、まだ触れられた感触が残っているような唇に、そっと手を触れて撫でる。

「エディル……」

 困ったことに、幼馴染として過ごしていた時から好きだった気持ちに気がついてしまった。
 一生懸命ふたをして気がつかないようにしていたのに。
 誰よりもエディル推しだった自分と、幼馴染へのほのかな恋心がかみ合ってしまったみたいだ。

「遠くから、推しを見守るくらいなら許されるかな」

 私は、ベッドの中で寝返りを打ちながら、そんなことをつぶやいた。