「私は萌華」


「…ほんとに違う?…すみません、取り乱して」


その人は私の横に座った。

「萌華ちゃんって言うんだよね。俺は唯太(ゆいた)」


知ってるよ。知り尽くしてるよ。


それは萌華を名乗ったからには言えない。


「今だけの話し相手になって」


「…別にいいけど」


「と言って俺が言いたいだけなんだけど。聞いてくれてたらいいよ。何も特別な助言なんかしなくていいから」


そう言って笑顔でこっちを見る。


「君が俺の“元カノ“にとてつもなく似ているんだ。…不快だよね、ごめん。でも今だけだと思うだ、吐き出せるのが」


ちょっとだけ聞いて、と“見和(みわ)唯太“が言う。


「俺ね、元カノがすごい好きだったんだ。大好きだったんだよ。でもね、俺から振ったんだよ」


「…なんで?」


私は当事者なのにも関わらずズケズケと聞く。


「その子が俺と一緒にいていいか悩んで悩んで悩んだ末、俺といても楽しくないじゃないか、将来的に幸せにできないんじゃない
かって思ったんだ」


「うん」


「今では後悔してるよ。ちゃんと、腕の中に留めておくんだったってね。今でもそう思うよ」


私は初めてその真相を知った。


だって、今までこんな理由で振られたなんて思ってなかったんだから。