オースティンだって元は平凡で善良な市民だった。
 だけど彼はわたしの知らないうちに『魔法使い』達がおかれた境遇への不満を募らせていた。良識を覆す何かが――魔法っていう少し特別な力が――彼を変えてしまったのだろう。


「控えめなところがザラの美徳だったのに、一体どうしちゃったの?」


 尋ねながらオースティンはわたしのことを見下ろす。


「控えめ……か。そうね、以前のわたしだったら、こんなことに足を突っ込みはしなかったかも」


 あんなに『危ないことには近づかない』って決めていたのに、自らこんな場所に飛び込んでしまった。誓いを破り、思うままに行動してしまったのは、どう考えても殿下の影響だ。何だか癪だけれど、不思議とあまり腹は立っていない。


「残念だよ、すごくね」


 冷たく響くオースティンの声に、わたしは大きく息を吸いこんだ。