「もうほんとにマネージャーは業界のことを何もわかってないのに社長をこき下ろすし上司がつくれと言ってくる資料がえっまじで?って感じ。だって商事からしたら早く提案をもってこい俺たちが中身を精査して詰めるからって感じじゃないですか。それをいつまでもいやそんなのじゃクライアントが何やってるんですかって言われるだけだから。違うよ何やってるのはお前だよ!いいから早く持ってけよってことだよ本当にコンサルってなんの役にもたってないよね。ねえどう思う?」
「そうだね。どう考えても奈都の方が分野の経験も知識もあるのに入社年次で発言力が決まるなんて、コンサルも体育会系なんだ。でも上司からしたら、それで自分たちのブランドを守って高いフィーにつながっているという面もあるんじゃないかな」
 テレワーク用に2つ揃えで購入したが段々と隣への侵略をはじめているオフィステーブルからこちらを振り返ると、彼女は一気に捲し立てた。スマホを置いた私は彼女に同調しつつ一つだけ指摘を与えると、彼女は確かに、とひとりごちて再度仕事に向かう。
 奈都との壁打ちが始まると、それを一言一句漏らさず聞いてtakeawayを最低一つ与えるのが会話のルールであり、ルールを破った場合は奈都は烈火の如く怒り出す。
 奈都との出会いは職場だった。当時大学生から4年間同棲していた彼女と別れたあとに、職場の上司がセッティングした飲み会で話すことになり、お互いに彼氏彼女の愚痴で盛り上がった。仕事に関連したイベントを好奇心満々で話す彼女にとって、自分が落ち着ける場所になれると思った。
 私達の結婚生活は至って順調にはじまった。お互いに尊敬をしあい、仕事へのやるきにみちあふれ、朝も夜もお互いに体を求めあった。 
 コロナが世の中にカバーのように覆いかかって、自分は在宅勤務にうつり、妻よりも早く寝るようになったとき、妻は毎晩深夜に帰ってきては泣くようになった。コロナの影響で会社が不祥事を起こし、毎日のようにその対応に追われているという。
 私はひと通りの方法ー外に連れ出したり、料理をつくったり、医療機関への受診を勧めたりーをしていたが、段々と怖くなっていき、通り一遍の優しさという名の距離を置くようになった。気まずさ、というよりはこの人間が壊れてしまいもとに戻らなくなってしまうのではないかという恐怖。
 様々な人に相談し、考えうる声をかけていったが、彼女は柔らかくてよく伸びる膜のようなものにくるまれて、こちらの声やあらゆる振動を通さないようになっていた。  
 私が長期の出張に行くタイミングがありそこから返ってきたとき、多少は気まずさもやわらいで、一、二回セックスしたが、そのまま一年以上、局部やその他のあらゆる粘膜への接触に彼女が拒否するようになり、それ以来一切セックスをしなくなった。
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