アヤメ?……って、あ、花村さんのことか!

「可愛かったね、あの子」

「え、可愛い?」

「うん。ハヤトの好きな子?」

「え!?」

「あれ? 違うの?」

「ち、違う違う! いきなり変なこと言うなよ! それより、買うものは決まったのか?」

「うん、決まったよ! とりあえず、あの棚にある生地、全部2メートルずつ買っていこうかなって!」

 にこにこと笑って棚を指すアラン。
 だけど、その言葉に俺は、顔を青くする。

 棚にある生地……全部??

「ぜ、全部って、お前はお金は!?」

「あるよ。魔界の換金屋に来てもらって、ちゃんと日本円と交換してもらったから。お金の心配はしなくて大丈夫だよ」

「そうか。それなら……じゃなくて! そんなに買ってどうすんだ!」

「どうするって、洋服作ったり、ぬいぐるみ作ったり」

「ぬいぐるみ!? ぬいぐるみも作れるの!?」

「うん、もう、100体近く作ったよ」

「100体!?」

 すげー、そんなに作ってるんだ!?
 いやいや、感心してる場合じゃない!

「あのな、そんなに買ったら重いし、帰り辛くなるだろ!」

「大丈夫だよ。腕輪の中に入れておけば、手ぶらも同然だし!」

 あぁぁぁ!!
 これだから、魔法が使える王子様は!?

「あのな、アラン! 日本の一般的な小学生は、手芸屋さんで布を棚買いしたりしないんだよ! 明らかに、おかしいだろ! ただでさえ目立つのにこれ以上目立ってどうするんだ! また今度、連れてきてやるから、今回は五千円分ぐらいにしとけ!」

「えー」

 なんか、すごく不服そうなアラン。
 でも、仕方ないだろ!

 だって、生地って10センチで、安くても100円なんだぞ!?
 
 二メートルで、2000円。
 じゃぁ、棚にある50種類くらいの布を買ったら、全部でいくらになるんだ!?

 考えるのも怖えーよ!!

「あ! 威世くんだー!」
「!?」

 だけど、その時、俺の背後から、いきなり女の子の声が聞こえてきた。

 振り返れば、そこには同じクラスの女子が三人、俺を見つめて立っていた。