そのぬいぐるみには、肩から、ざっくり切られたあとがあった。

 生地が引き裂かれて、中からは綿がはみでていて、なんだかとても痛々しい。

「あ、そうだ」

 すると、ふと思い出して、俺はポケットから、裁縫セットを取りだした。

 さっき夕菜が来た時に、とっさに隠した裁縫セット。ちなみに反対側のポケットには、ララが入ってる。

「……せっかくだし、直してあげよう」

 こんなに可愛い人形が、このままなのは可哀想な気がして、俺はそのまま床に座り込むと、裁縫セットの中から、針と糸を取り出した。

(糸は……白、しかないか)

 肌の色──すこしだけ色味が違う気もしたけど、肌色がなかったから、あまり目立たないように白にした。

 着せ替え人形みたいになってるその人形は、服だけ別にできたから、まずは肩のほころびを縫い目が目立たないようにすくいながら縫って、そのあと、糸を赤色に変えて、ドレスの方も縫い合わせた。

「できた!」

 おー、なかなかいい感じ!

 お化け屋敷の中で何やってんだ──って、自分でもツッコミたくなったけど、縫い終わって、改めてその人形を見れば、本当に綺麗で可愛くて

「いいなー。俺も、こんなすごい人形作れたらいいのに」

 そんなことをしみじみ思っていると、ミーが横で、にゃ~と鳴いた。

 あ、そうだった。もう帰らないと、夕菜が心配してるんだった。

 そう思うと、俺は裁縫セットをまたポケットの中に突っ込んだ。

 だけど、その時

 ──ガシャァァァァァン!!?

 と、突然ガラスが割れる音が響き渡った。