その、変な平民女の話を僕にして来たのは。
兄上リシャールの将来の側近、ドミニク・フランソワだった。


「教科書を破かれた、とか。
 噴水に落とされた、とか。
 階段から突き落とされた、も」

「……全部、有り得ない話でしょう。
 どうして、それが噂になっているの?」

「面白いから、でしょうね」


……つまりは、皆は裏であの女を嗤っている、ってこと?



生徒会室で、だった。
兄上は父上の国王名代で、隣国に出ていて、学院を公欠していたのだ。
そろそろ2週間になる。
ドミニクは現状学業優先だから残ったけれど、護衛のアンドレは同じく公欠扱いで、兄上に付いて行った。

兄上の留守中は、来年生徒会長になる僕が代わりに生徒会に顔を出していた。
勿論、会長代理の仕事は副会長のドミニクに任せて、僕は余計な事はしないが
『顔出しして、大体の流れを掴んでおけよ』と、生徒会役員皆の了解を貰ってから兄上が言ったからだ。



この話をしているということは、当然兄上の婚約者のクロエ嬢はこの場に居ない。