2度と馬鹿な事は口にしないと誓った俺が、それだけで婚約が継続されるならと、同意した鉄拳がどれ程のものか、想像もしていなかったが、俺に向かって腕を振り回しながら近付いてくるクロエの姿を見たら、結構なものだと……想像がつく。

午前中に国王陛下からも殴られていたから、そのダメージも未だに残っている。
せめて鉄拳を振るう前に、今回俺はヤラカシてないよ、無実だよと、説明させてくれないかな。



クロエが俺の名を呼びながら、近付いてくる。


「殿下! リシャールっ!」

彼女の手が俺の方に伸ばされて……
思わず目を瞑り、直ぐに来るであろう衝撃に身構えた時。


「陛下に叱られたと聞きました。
 ちゃんと冷やされたの?」

え?…… 陛下に殴られた頬をクロエが優しく触れていた!


「嘘をついて予定を切り上げて帰国されたと……
 陛下に注意されたから、今回は私はもう叱りませんよ?
 だけど、次にやったら、その時は鉄拳ですからね?」

ビグローの件で怒ってるんじゃないんだ?
クロエは笑ってくれていた。
俺の頬に当てられたクロエの掌はひんやりと冷たくて。
君の手でこうして冷やしてくれるなら、それだけで。

陛下に殴られた甲斐はあった。