その少年を見た時、心が跳ねて……そして、胸の辺りが疼いた。
とうの昔に忘れなくてはならなかった……恋の名残り。

それは小説になり舞台になり、吟遊詩人達は、リュートの調べに乗せて、彼女の事を唄った……『悪役令嬢』と。

だが、誰も知らないもうひとつの物語があった。
『悪役令嬢の真実の愛』の物語だ。


私は卒業パーティーで婚約破棄を告げられて断罪された。
それはわかっていたことで、逃れられないことだった。
悪役令嬢は己の運命を粛々と受け入れて、表舞台から退場する筈だった。

家門の恥だと父親は怒り、私を勘当して遠くの修道院へ入れてしまうだろうと考えた。
何故なら、もっと昔に私と同様に悪役令嬢にされた王子の婚約者の末路がそうだったからだ。
その女性は王子と彼の不貞相手の『真実の愛』の前では無力だったから。


それで自分の場合もそうなると想定していたのに。
婚約者の王太子ルイと彼のお相手のコレット・モーリス男爵令嬢に丁寧にカーテシーをして下がろうとした時、腕を掴まれてしまったのだ。