「アンドレ・マルタンは伯爵家の四男だ。
 継ぐ家がないから、14で騎士団に入団した。
 私の護衛になったのは偶然かと思っていたが、そうではなかった」

「……」

「それが何故かは詳しい話は君には出来ない。
 王妃陛下がアンドレに然るべき縁組みを探している。
 下調べに時間を掛けて、じっくり相手を探すおつもりだ。
 君が本気なら、私は君を推薦する。
 どうするか、お父上と相談して返事をして欲しい」

「殿下、どうしてその様に……」



どなたを婿に取るのか、私の希望等通るはずがないと、諦めておりました。
そう続けようとして、私の言葉は止まりました。

生徒会室の扉がノックされて、殿下がお応えになる前に扉は開かれたのです。
何故なら、今は授業中で。
儀礼的にノックをされましたが、部屋の中には誰も居ないと思われて開かれたのでしょう。


入り口からは正面に殿下がお座りになっている生徒会長の机があり、私はその前に立っておりました。
目の前の殿下のお顔が大きく歪んだのが見えて、自然と私は振り返りました。

入口に立って、こちらを見ていらっしゃったのは。
クロエ様でした。


「お取り込み中でしたのね、申し訳ございません。
 忘れ物を取りに来ただけなのです」

クロエ様はそう仰せになり、丁寧にカーテシーを殿下に向かってなさいました。