君にかける魔法

慣れないヒールで全速力で走る。
転びそうになりながら、必死に走る。


「どうしたの!?美園さん!!」

「体調がっ、…っ心配で、…はぁっ…来ちゃって」

息を切らしすぎて、まともに話せない。
とにかく家の中に入れてもらう。

「多分、寝てるわ。勝手に入って大丈夫だからね」
「…ありがとうございます。」

星川先生は私をナツキの部屋の前に連れていき、その場を去った。


ドアを開けようとする手が震える。
大丈夫、大丈夫…
自分に言い聞かせて、私はドアを開けた。

(やっぱり、寝てる…)

『ナツキ、練習来てないって。このまま体調崩したら、明日、出れないかもしれない』

寝顔が、苦しそう。

「練習しすぎたのよ。」
「あっ。」

なかなか部屋の中に入らない私の後ろに星川先生が立っていた。

「言ってたよ。…大切な人が見に来てくれるからって。」

大切な人……

恐る恐る足を前に出す。
静かにドアが閉まる。
2人だけの空間。

「無理したら意味ないじゃん。…2年間頑張ってきたんでしょ。…踊って…早く良くなって……」

ナツキは寝たままだ。
私の声は小さすぎて聞こえてなさそうだ。

私は医者でもない、魔法使いでもない、
ナツキが辛そうなのを見ていることしか出来ないよ。