あっ、柿崎(かきざき)さんだ。

黒いワンボックスカーの横にしゃがみ込んでいる、運転手を発見。


相変わらず、スーツと眼鏡が似合うお兄さんだなぁ。

眉間にしわを寄せているところも相変わらず。


タイヤの圧を確認している柿崎さんに向かって、俺は右手を挙げた。



「柿崎さん、おはよう」

琉希(るき)様、おはようございます」



いっさいの笑顔なし。

まぁこれが、柿崎さんの良いところなんだけどね。



「車の点検、毎日念入りすぎじゃない?」


「そんなことはありません。日本の未来を背負う、月見財閥の御曹司を乗せるのですよ。何かあったときには、この柿崎の命を差し出しても損害は払いきれませんから」



重い重い。

全く笑わず、声に抑揚もないし。


そんな真面目全開で言われたら、なんて返事を返していいか困っちゃうんだけどな。

でも俺は、ほとんど笑顔を見せないこの真面目な運転手さんに、かなり心を許している。