これでは離れたところにいる月見家のSPさん達には、気づいてもらえそうもありません。
彼らは自分の命を懸けるほどの熱量で、ミルキー様とミルキー様のご両親を警護していますから。
綾芽さんはさらに声を甘くすると、悲しそうに涙を流し始めた。
「私ね、拓真のことが大好きなんだよ。拓真がこの世で一番大事なの。でも……親が決めた婚約だから……家族や従業員を守り抜くためのものだから……泣く泣く受け入れるしかなくて……私も本当につらくて……」
「その言葉、信じていいんだな」
「もちろんだよ。私は拓真のことが大好きすぎなの。この婚約が白紙にならないか、ずっと神様に祈ってるんだもん」
「相変わらず、可愛い奴」
「フフフ。私は月見財閥の御曹司と結婚させられるけど、死ぬまで拓真だけのことだけを好きでるからね」
フッと鼻で笑った拓真さん。
綾芽さんの背中に突き刺していたナイフを、すっと下ろす。
緊張で立てっぱなしだったしっぽも、下におろした。
綾芽さんはそのすきに、私の後ろに回り込んだ。
私を盾として、自分の身を守るかのように。



