綾芽さんの背中にナイフを突きつけている男性の目が、異常なんです。
人を殺すのを何とも思わない、猟奇殺人鬼のよう。
毒で獲物をしとめようとする大蛇にも似た、ネチネチと気持ち悪い目を不気味に動かしていますから。
「ちょ…ちょっと……変な真似はやめてよ……拓真……」
あれ?
この若い犬獣人さんは、綾芽さんのお知合いですか?
恐怖でビクビクの綾芽さん。
「ちゃんと話そう。拓真に何も言わずに日本に帰ってきちゃったこと、悪かったなって反省してるから……」
後ろに立つ男性に顔だけを向け、オドオドしながらも微笑んでいる。
「婚約していた彼女が、ある日突然いなくなった。親に聞いたら、一方的に婚約破棄までされてて。俺よりも金持ちな御曹司と婚約するって聞かされた俺の気持ち、綾芽は考えたことがあるのか?!」
拓真という男性は、声を荒らげたりはしない。
私たちにしか聞こえない小声で、今にも爆発しそうな怒りを綾芽さんにぶつけている。



