高い身長、細縁の眼鏡、染めたことのなさそうな真っ黒でゆるいくせのある髪。ピンク色で可愛げのある唇と、穏やかにこちらを見つめる、褐色の宝石のような瞳。
「あら、学生さん?ですか?」
「はい、この4月で大学3年になりました。ここでひとり暮らしをしています」
目の前で、母親と高村が話をし始める。
私はどうでもよくなって、無駄に手入れを続けているまっすぐな自分の黒髪を指先で弄ぶ。
めんどくさ、近所付き合いとか。
愛想ふりまくだけで、なんの意味もない。
叩きつけるように、鼻から大きく息を吐く。片足に重心を移して自分の爪をいじれば、もう誰も、私と関わりたいなんて思わない。
こうやって私はいつも、他人を遠ざけてきた。
「……ちょっと。挨拶しなさい」
母親が私を睨みつける。
そんなんで私が従うとでも思ってんの?めんどくさ。
私の印象はきっと最悪。凍った空気を嘲笑ってやろうかと思った、その瞬間。
「……高村です。よろしくお願いします」
眼鏡の青年は少し屈んで、私の目をまっすぐに見据え、他の誰でもない私にそっと、優しく微笑みかけた。
どうもすみませんね、と、母親の声が聞こえる。
そこまで大きくないのに、すべてを包み込んでしまいそうな深い色の瞳が、まだ私を見ている。
私はただ、返事もせずに目を逸らした。