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『………これで荷物、最後だから』


重い段ボール箱をどすんと置き、リビングの床に座り込んでいた母親に声をかける。


「…………」


だけど、返事なんてない。
わかってた、まあわかってたけどさ。

濁った空気にうまく息が吸えず、ほっと吐き出すと呆れたようなため息に変わる。
意思の疎通なんて、とうの昔に諦めた。



私たちは、ついこの前父親に捨てられた。
高校2年の4月、そのせいで、今日からこの小さなアパートでふたり暮らしだ。



『………ちょっと外の様子、見てくる』


本当は少しも、外の様子に興味なんてなかったけど、ここにいるよりはマシだ。

相変わらず、返事のないちっぽけな背中。
廊下を横切る、サンダルをつっかける。


とにかく逃げたかった。
この現実が消えてなくなればいいって、本気でそう思っていた。