今この瞬間もあのクマさんは哀れみのかたまりのようなつぶらな瞳でこちらを見つめているのだろう。





「あの、どうかされましたか?」





重いため息を吐いてすぐ真上から聞こえてきた声に立ち上がるのよりも先に、声の主を見上げる。



最初はクマさんかと思ったのだ。



ようやく声をかけてきたかと、もう見ていられなくなったのかと、大人の事情で声を出してはいけない彼、もしくは彼女が着ぐるみ人生をかけて来てくれた。私は覚悟した。



なのに、そこにいたのは人の形をした人間だったのだ。



一言でいえば容姿端麗。



日に映えるココア色の髪の毛。透き通った瞳に、思わず目のいく通った鼻筋。



彼が王子様だと言われても疑う余地はない。悲しいことにもこの国にあるのは桃が川から流れてきたり、竹から可愛い女の子が出てくるもので、王子様は存在していないのだ。私の知る限り。



存在しないから、どこか遠い一国の王子だと勝手に決めつけた。



色素の薄い瞳が私を捉えて、ほんのちょっぴり下がった眉は、クマさん同様私を心配してくれているんだと分かる。



手を伸ばしてくれたのは、蝶ネクタイが似合う白シャツを着た男性キャストさんだった。



...どこ生まれ?