「お母さん、大丈夫?体調悪いの?」

「茜・・・・・、助けて」


弱々しく今にも消え入りそうな声だった。こんな弱々しい姿は今まで見た事がなかったので、心配でたまらなかった。


「お母さん!何があったの?助けてってどういうこと?」

「・・・・・あっ、いや・・・・・。
ごめん。今のは・・・・・忘れて」


私は不安と焦りで、思わず声を荒げてしまった。
そんな私の声に、ハッと我を取り戻したかのように気まずそうな顔をしたお母さんは、小さく頭を振って言葉を(にご)した。



「忘れられないよ。何があったの?助けてってどういうことなの?」


何かを考えるような顔をして、しばらく無言が続くと、表情を強張らせて、ようやく重い口を開いた。



「・・・・・お父さんね、癌なんだって」

「え?」


突然のことで戸惑いが隠せなかった。分かりやすく動揺している。唐突過ぎて状況を飲み込めない。


「それでね、3日前から入院してる」


ここ最近は、球技大会の練習を公園でして、帰ってくるとお風呂とトイレ以外は自分の部屋に籠っていたので、お父さんが体調悪かったことにすら、気付けなかった。


「入院するほど、悪いの?」

「今回は検査入院。手術して癌細胞を取り除けるか、薬剤治療になるのか・・・・・、検査次第かな」
 



癌。まさか、お父さんが癌になるなんて。


どうしてだろう。自分の親は元気でいるのが当たり前のように思っていた。


気付けなかった自分に、何処にもぶつけようのない怒りと後悔に打ちひしがれる。




「それでね、茜にお願いがあって・・・・・」

そう言いかけると、何かを思い出したように言葉が止まった。お母さんの顔は引き攣っていた。


「私に何かできる事ある?」

「・・・・・ごめん。なんでもないの。
・・・・・本当に。忘れて。ね?」


歯切れの悪い口調は、気掛かりだったけど、目を真っ赤にして泣くのを我慢しているお母さんの姿を見ると、それ以上追求できなかった。