幼馴染御曹司と十日間の恋人契約で愛を孕んだら彼の独占欲が全開になりました

 本当の恋人同士の時間を過ごした、最後の夜。

 清登が沙也を置いて、先に帰ってしまったのは、きっとせめてもの優しさだろう。

 互いに追い縋らないように。

 きっぱりおしまいとするように。

 だから独りのベッドで目覚めても、そのあと泣いてしまっても、沙也は恨む気持ちなんてまったくなかった。

 それどころか、独りにしてもらえて有難かった、と思った。

 みっともない姿を晒させないでいてくれた。

 そういう、優しいひと。

 十日間だけ、恋人でいてくれたひと。

 まだ寂しさや苦しさは去らないけれど、徐々に幸せな想い出だけが残っていく。

 そうわかっていたから、今は。

 写真立てを倒してしまい、彼との写真がたくさん乗ったアルバムなんて些細なものから心揺れて、涙を零してしまうとしても。

 きっと立ち直っていける。

 元の自分に戻れる。

 幸せな時間を胸の奥に抱いたまま、彼無しで生きていけるように、きっとなれるから。



 現在の沙也は、ぐっと目元を拭うのだ。

 今はまだ、清登のことを考えると辛くなって、その場を逃げ出したりなんてしてしまうとしても、しっかり想い出として、自分の中で大切にしていけるように。