幼馴染御曹司と十日間の恋人契約で愛を孕んだら彼の独占欲が全開になりました

 不意に電子音が耳に届いて、沙也は、はっとした。

 今、耳に届いているのは、子どもらしく甲高くて、明るい声ではない。

 ただの電子音と、同じく電子を通しているから歪んだ、機械的な声だ。

『次は……駅、……駅、お降りの方は……』

 電車のアナウンス。

 ぼうっと思考に沈んでいても聞き取れたのは、聞き慣れた駅、つまり沙也が降りるべき駅の名前だったからだろう。


 降りないと。


 思って、沙也はあたふたと支度をしだした。

 乗ってすぐは見ていたスマホを、バッグのポケットにきちんと入れる。

 代わりにパスケースを取り出した。

 駅に着いたらすぐ改札を出られるように。

 そして立ち上がり、網棚に乗せていた小さめのボストンバッグを……あ。

『ったく、重たいだろ! ほらっ、貸しな!』

 ……ああ、確かあれは、修学旅行から帰ってきたときだった。

 小学校の……秋だったかな。


 またしても一瞬の夢、いや、想い出がよぎってしまった。

 それくらいには、彼・清登は沙也の中に深く根付きすぎていて、これから彼なしで生きていくことが、今だって信じられないくらいだった。