幼馴染御曹司と十日間の恋人契約で愛を孕んだら彼の独占欲が全開になりました

「幸せにも色々あるよね。長く続く幸せもあるけど、それがすべてってわけじゃないし……、一瞬でも、心に染み入って、そのあともずっとなくならない幸せもあるって思う」

 食べ終えたクランチチョコの袋を丁寧に畳みながら、明依は半ば呟くように言った。

 その言葉は沙也の心を打つ。

 そうだ、自分が味わっているのは、いっときの幸せかもしれない。

 でもこのあとの人生でも、ずっと心の一番大事な場所にあってくれるものになるのだ。

 そう確信している。

「私も、そう思うよ」

 だから同意した。

 明依が顔を上げ、沙也を見る。

 切なげな顔はすべて消えていなかったけれど、笑顔だった。

 その笑顔に勇気づけられる気持ちになりながら、沙也も笑みを返す。

「ありがとう、明依。いつも聞いてくれて」

 お礼の言葉を口に出す。

 いつも助けてくれて、力になってくれて、あたたかな気持ちもくれる友達に。

 そのうち始業のベルが鳴って、休憩時間は終わりになり、仕事へ戻ったけれど、沙也の心は穏やかだった。

 一瞬の幸せ。

 でもきっと心の一番奥にいつまでも残るものになる。

 そんな時間をもらえること。

 それを『素晴らしいこと』と肯定する言葉をもらえること。

 両方とも、なんて素晴らしいことなんだろう。

 優しくて、素敵な考えを持つひとたちに囲まれてるんだな。

 沙也は実感した。

 清登との十日間の交際からもらえるものは、彼と二人の幸せなひとときだけじゃないのかもしれないな、と思いながら。