「じゃ、清登くんもこのあと気を付けてね」

 車であるし、そもそも清登の車で、運転手が運転して帰るのだから心配はないだろうと思いつつも、そう言う。

 現在、清登はこの近所である、子どもの頃、暮らしていた家には住んでいない。

 少し離れた、もっと都心に近いエリアで独り暮らしをしているそうだ。

 そのほうが会社に近いし、便利だから、と言っていた。

 だからここからはやはり少し走ることになるのに、それでも送って来てくれた。

 優しさしか感じられないことである。

「……沙也」

 しかし、清登の返事は、沙也の言葉に対するものではなかった。

 ただ、名前を呼んだ。

 不思議に思った沙也だったが、それは一瞬だった。

 清登の腕が伸ばされて、気付いたときには清登の腕の中にいたのだから。

 力を込め過ぎないように、しかし確かな力で、きゅっと抱きしめられてしまう。