「うん。では、失礼します」

 真悠を見て、軽く会釈する。

「ええ。引き留めて悪かったわ」

 真悠も穏やかに……少なくともそう聞こえる様子で返してきた。

 それでおしまいになった。

 真悠と別れて、玄関へ向かって、送迎車の停まるところへ行って、先ほどと同じ車に乗り込む。

 今度は運転手が運転席にちゃんといたので、二人で並んで後部座席に座る形になった。

「ごめん、沙也。まさかこんなところで会うなんて」

 車が発進し、ホテルの敷地を出てから清登が心底申し訳なさそうに言う。

 そう謝られるのはわかっていたので、沙也はすぐに否定した。

「ううん。偶然だよ」

「そうだけどな」

 沙也の返事に、清登はほっとしたようだ。

 ちょっとだけ笑みになって、そう言ってくれた。

 そのあとは、もう彼女の話はしなかった。

 ただ、週末はどこへ行こうとか、そんななんでもない話になる。

 ディナーの最後にしたものと同じだった。

 でも、空気はだいぶ違っていた、と沙也は感じてしまったし、清登も同じだったようだ。

 少しぎこちなく感じる空気の中を乗せて、車はまず沙也の家へと向かって走っていった。