幼馴染御曹司と十日間の恋人契約で愛を孕んだら彼の独占欲が全開になりました

 ただ、あの想い出はもうホテルを出る前、置いてきた。

 夜明けから、数時間もぐすぐす泣いて、そのあとシャワーを浴びたときに、流してしまったつもりだった。

 だから、今、頭に浮かんだ声は、数年前に聞いたものだ。

『沙也さ、昨日のテレビ見たか!? すっげー広い海に住む動物のやつ!』

 想い出といえるかも怪しい、記憶の断片。

 日常の何気ない会話。

 ……ずっとそばにあったもの。

 彼・香々見(かがみ) 清登は沙也にとって、身内を除いたら一番近しいひとだ。

 いや、『だった』か。

 沙也は頭の中で、自分の思考に訂正を入れた。

 これからは、彼にとって『一番近しいひと』は別のひとに……ああ、やめよう。

 もう一度、自分の思考に言い聞かせ、沙也はただ、想い出をぼうっと反すうした。