幼馴染御曹司と十日間の恋人契約で愛を孕んだら彼の独占欲が全開になりました

 私からもなにかしてあげたいな。

 沙也はそのように思いながら、煌びやかなロビーの一角に置かれたソファに座って、清登の電話が終わるのを待っていた。

 そのとき、ホテルの玄関側から、つかつかと歩いてきたひとがいた。

 長い茶髪をふんわりと巻き髪にして、上品なワインレッドのワンピースを身に着けている。

 顔立ちだって美人だった。

 くっきりとした目鼻立ちに、抜かりのないメイクを施している。

 ああ、ああいうオシャレな美人さんはこういう場所でも浮かないんだなぁ。

 沙也はのんびりそう思ったのだけど、数秒後に、目を丸くしてしまった。

「あれ、清登さんじゃない」

 ちょうど電話を終えて、こちらへ歩いてきていた清登を見止めて、彼女は名前を呼んだのだから。

 お知り合い?

 沙也の頭に疑問が浮かんだのだが、なんだかその想像は良いものではないように感じられた。

 どこか、ざわっとしたような感覚が一緒に浮かんでくる。

「あ、ああ。真悠(まゆ)。どうしたんだ、こんなとこで」

 彼女に声をかけられた清登はそちらを見て、すぐに彼女が誰なのかを知ったようだった。

 名前で呼んだ。

 そう、名前で。

 その時点で、沙也の頭には閃くことがあって、ざわっとした感覚がもっと強くなった。