幼馴染御曹司と十日間の恋人契約で愛を孕んだら彼の独占欲が全開になりました

「……」

 不意に、くちびるが動いた。

 多分そのくちびるは、名前を発する形に動いたはずだ。

 ただ、声にはならなかった。

 もう呼んでいい名前ではないから。

 そう悟ってしまったから。

 自分はもう、名前すら気軽に呼べないほど、彼と離れてしまった。

 無意識の行動で実感して、沙也の胸は、今度、はっきりずきんと痛んだ。

 ぎゅっと胸元のシーツを握る。

 すぐにその手の甲に、ぽた、ぽたっとしずくが落ちた。

 冷たい涙が、次々と落ちてくる。



 本当に終わってしまったのだ。

 長い、長い初恋は終わった。

 昨夜という、とても甘くてとても切ない、最初で最後の一夜によって。