幼馴染御曹司と十日間の恋人契約で愛を孕んだら彼の独占欲が全開になりました

「良かったじゃない。一人前になるんだね」

 思ってもみないことを口に出し、浮かべたくもない笑顔を浮かべる。

 だって自分には、ほかに言うこともない。

 言えることもない。

 言えるような立場だったら良かったのにな、と思ったけれど、そんなことはもう今さらすぎた。

 ……彼女だったら良かったのにな、なんてこと。

「……うん。そういうことだろうな」

 清登は沙也のそれを聞いて、眉を寄せた。

 しばらく沈黙が落ちる。

 沙也の言葉は褒めるようなもので、清登はそれを肯定したのに、この場の空気はちっとも明るくなかった。

 むしろ、淀んだようなものにすら感じた。

 初夏の爽やかな風など、どこかへ消え失せていたのだ。

「沙也」

 不意に、清登が顔を上げた。

 固い声で沙也を呼ぶ。

 清登に名前を呼ばれるなんて、もう慣れ切っているのに、そのとき沙也の心臓は、どくん、と反応した。

 まるで、このあと言われることを予知したような高鳴りだった。