幼馴染御曹司と十日間の恋人契約で愛を孕んだら彼の独占欲が全開になりました

 ファミレスのコーヒーなんて、高級でもなんでもない。

 普段、飲むインスタントコーヒーに近い、チープな味がした。

 それでもコーヒーのいい香りは確かにあって、それが鼻に入ってきたこと。

 それから喉にあたたかな飲み物が通ったこと。

 両方から、沙也の気持ちはもっと落ち着いてきた。

 ふたくちほど飲んで、コーヒーカップをソーサーに戻したときには、ほう、と息をついてしまったくらいだ。

 でもそのことで知る。

 少し落ち着けた、と。

 緊張ばかりだった心が、ほんの数ミリであってもほどけてくれた。

 実感したところへ、目暮が声をかけてきた。

 自分も持ってきたコーヒーを飲んでいたようだ。

「コーヒーの香りにはリラックス効果があるそうですよ」

 目暮のその言葉で、沙也は思ったことが間違っていなかったことを知る。

 衝撃を受けた自分を落ち着かせようとしてくれたのだ、と。