幼馴染御曹司と十日間の恋人契約で愛を孕んだら彼の独占欲が全開になりました

「お疲れ様でーす」

 一日の仕事が終わって帰れるとなれば、心に引っかかっていることはあっても、解放感から心は明るくなる。

 ロッカールームで着替えた沙也は、すれ違う社員たちに挨拶をしながら、出口へ向かっていた。

 仕事中はシュシュでまとめていた茶色のロングヘアは、すでに下ろしていた。艶やかな髪が、さらりと背中に落ちている。

 服も制服から着替えた。ブラウスに膝丈スカートといった、通勤スタイルだ。

 この会社『スカイ・ムーヴ』に就職して約二年。

『スカイ・ムーヴ』は、車のメンテナンスを主に扱う中小企業。沙也はその営業事務担当だ。

 大学卒業後の入社以来、もう仕事にもすっかり慣れて、今では立派な一人のOL。

 このように、仕事も外見も、沙也は特に飛びぬけて秀でているわけではない。友人らは「優しげな顔立ちが魅力だし、かわいい」と言ってくれるけれど、自分では十人並みの容姿くらいだろう、と思っている。

 若い女子らしく、外見には気を使っていて服も髪も、ネイルなども手を抜いていないけれど、それでも美人になれるはずはないから。

 どこにでもいそうな、普通の若い女の子。そう言ってしまっても、なんの間違いもないだろう。

 そんな普通の女の子でしかない沙也は、無事に職場の玄関に着く。

 気分転換に駅ビルでも覗こうかな、なんて思いながら、通勤バッグを肩に掛け直して夕暮れの中へ踏み出したのだった。