狼の目に涙

『敬語はその…初対面でタメ口はダメかなって』

前田くんには初対面でタメ口だったけど。
と、口には絶対出せない余計な一言を心の中で呟いて、佐々原雅にはへへッと笑ってみせた。

「上手い言い訳だな。タメ口で良いよ」

佐々原雅に小さくお辞儀をすると、会話が途切れた。

また冷たい空気が流れる。
通勤と通学のラッシュは17時だから、一時間早い今、乗っているのは私たちとおばあさん一人だけ。

賑わっていると、会話がなくても暇を持て余せるけど、持て余せるものがないとソワソワする。