狼の目に涙

「俺、お前しか言ったことなかったけど、名前何ていうの?」
『三浪あこ。…てか何で隣にいるの』
「わざわざ離れて座るから、喋りにくいだろ。後ろ向いたらバス酔いするし」

右から声がしたから不思議には思ったけど、いつの間に前の席から移動したのか。
三浪あこ、三浪あこ。
隣で私の名前を連呼して、体に染み込ませている。

『別に覚えなくても良いですよ?』
「二日も一緒にいたら、名前ぐらい気になるだろ。それに、お礼もしてないしな。名前覚えておかないと」
『お礼なんて要らないです!私が勝手に心配してるだけなんで』
「心配してもらったお礼。あとずっと気になってたけど。その敬語、何?俺がヤンキーだから、ビビって敬語使ってんの?」