狼の目に涙

義務教育9年をかけての集団行動の指導に、無意識のうちに忠実に従う生徒たち。そしてそれに抗う私。これがいつものクラスの風景。

「三浪さん、おはよう」
『…お、おはよう』

今日はそのいつもとは違うみたい。私の前の席の男の子、前田くんが目も合わせたことない私に声をかけてくれた。
条件反射で挨拶を返したけど、学校で先生以外に挨拶を交わした人は前田くんが初めてだった。

「いつも本読んでるよね。真面目って感じ」
『そう、かな?真面目ではないよ。友達より本の方が素直だから好きなの』
「そういう三浪さんも素直だね。それ、友達が聞いたら悲しむんじゃない?」
『…友達、いないから。悲しむ人はいない』