キミと放送室。



いつもならお弁当を食べ終わると、読書をしたりするけれど。

名波先輩にからかわれて、今日は本を読む気にもならない。



少し早いけど教室に戻ろうと、流していた音楽のボリュームをゼロにする。


CDケースの曲名をもう一度眺めるけれど、なぜ持ち主が男子だと分かったのか。


私には全く分からなかった。


CDをしまう為ケースを開けたとき、ヒラヒラと曲名が書かれたカードが床に落ちた。



「あ…」


しゃがんでカードを拾うと、いつの間にか起きてきた名波先輩が私の目の前に同じようにしゃがんで視線が並んだ。



「終わるの早くない?」


寝起きだからか、名波先輩の声が少しかすれている。


「今日は、日直で…」


きっと、私の小さな嘘も。彼にはお見通しな気がする。


私が手に持っていたカードをスッと抜いた名波先輩。

「明日もコレ流すの?」

「そう、ですね。まだ全部終わってないし」

「ふーん」

何だろう。この状況。

こんな至近距離でしゃがんで話して。

私でも分かる。

ソファでギターを弾いてる時とは空気が、ちがう…気がする。



名波先輩はカードと私の顔を交互に見る。


「…なんですか」



名波先輩はしゃがんだまま一歩、私に近付いた。


「なんか、ムカつくな」


咄嗟に下を向きかけた私の顎を、名波先輩の右手が支えて再び視線が絡んでゆっくり近づく気配。




その時、勢いよく放送室の扉が開いた。






「航ー!…って、あれ?」



名波先輩は声を聞いてすぐに誰か分かった様子で、うなだれるように頭を下げた。


先輩越しに目が合ったその人は、オレンジ色の髪をした男子生徒だった。