「ふざけているのはあなたでしょう?」




「なんだと?」




「こんなに私は可愛がってあげたのに…」





「…裏切ったわね?」




その場の空気がピリつく。

みんなが息を呑む。


「でもやっぱりあなたのことが好きだわ。」

「だから……優しく地獄へ落としてあげるわ」










「カットォオ!!!」

監督の甲高い声が響く。



「…ふぅ」


そう。私は今、6月から公開される映画「道化と悪花」の悪役リティス・クライネの役を演じていた。



この悪役リティス・クライネは、主人公であるカイルの恋人であったが、カイルはリティスの家族を、愛するレイラのために皆惨殺するという極悪非道なことをするも、カイルを嫌いになれないリティスが、カイルに優しくも悲しい地獄へと落とそうとするのである。



いつも演じる役とは違い、悪役のため、演じるのが難しい。



「零ちゃんー!」

「さっきのシーン、良かったよ!次も任せたよ?」



「ありがとうございます!頑張ります!」



監督、優しいな。何回も私を使ってくれて、感謝しかない。



「零」


「あ、舞さん!」
舞さんとは、私のマネージャーの笹田 舞さんのことである。


「ほら水。」


「ありがとうございます!」


「調子はどう?」


「いい感じです!ただ、初めてやる役で少し緊張しますけど…」


「大丈夫よ。零は凄いもの。」


「えへへ…そんな言われると、頑張りたくなりますね…」


「次のシーン入りまーす
スタンバイお願いします」


「零ちゃーん!」


「はい!今行きます! 舞さん、このシーン終わったら今日の仕事終わりですよね?この後飲みでもいきましょ!」


「はいはい笑」


「3!2!1!スタート!」


____「~~~

==================
〈居酒屋にて〉


「舞ざぁん……」


「ん?」


「最近、悩みがあって……」


「どうしたのよ」


「ちょっと…あの……あいつの話なんですけど……」


「あぁ……それで?最近はどう?」


「なんか最近、メンヘラ化してるような……」


「零が?」


「いやいや、あいつがですよ!」


「ふんふん」


「それでその…これ……」


「……は?220!?」


「……」
この220という数字は、L○NEののメッセージ数である。
そしてこれを送ってきたのは……


「朔も好きねぇ……零のこと」


「……」
そう。芸能仲間兼彼氏の朔こと宮竹 朔である。


「どうすればいいですかね…なるべくLINEするなって言ったら、拗ねてさらに送ってきて……」


「それは大変ね……内容も……」

L○NEには長々と『今どこで何してるの?』『返してくれないと俺死んじゃう』だとか書いてあり、かなりメンヘラなのである。

ピコン ピコン


『既読無視しないで?』

『俺の事、嫌いになった…?』


「かなり…熱烈ね」


「……」


「舞さん……どうすれば……」


「まぁひとまず、会いに行きなさい。寂しいのかもよ?」


「でも……」


「私は1人で飲んどくから…ね?」


「分かりました。お金、置いときます」


私は大人しく居酒屋を出て、朔の家に変装してこっそりと向かった。


ピンポーン


『零?』


「ごめん、急に来ちゃって…開けてくれる…?」


『……うん』


ガチャッ







ガチャッ


「零!!」


「本当ごめんね、急に」


「いいよ、零ならいつでも。
入って」



「お邪魔します……」