祈りを捧げるたびに、それを自覚していた。リシャールと過ごすとき、アリッサの感情は通常の何倍も豊かになる。それ自体は悪いことではない。きちんと制御し、うちに閉じ込めることができるのなら――。
 でも、今のアリッサにはそれができていない。感情が外に流れてしまっているのだ。
(リシャールさまといると楽しくて、それを彼に伝えたい、知ってほしいと思ってしまうから)
 人が関係を築いていくことは感情を交換し合うことだ。恋人なら『好き』という気持ち、ライバルなら『負けたくない』だろうか?
(私はリシャールさまになにを伝える気なのだろう? それは決して許されないのに)
 この王国のためにも、リシャールの名誉のためにも、アリッサは大聖女でい続けなくてはならない。

 アリッサは幸せでたまらない彼との時間を捨てようと、決意した。
(リシャールさまは『ゆっくり夫婦になっていければ』と言った。それはつまり……いつかは私に妻の役目を期待しているということよね? 私はその期待に応えることはできない)
 一緒に過ごすだけで力に陰りが見えているのだ。閨をともに……など自殺行為だった。
 だから、彼にほかの女性をすすめたのだ。リシャールの目にはアリッサは無表情に見えただろうが、心のなかは身を裂かれるような苦痛にあえいでいた。

『そんなことは絶対に認めない。俺の妻は君なのだから』