その1
ケイコ



”ここ”のグランドに一歩足を踏み入れると、変な言い方だが、すっ裸になって一人だけで銭湯にいる気分になった

外からは筒抜けで大勢の目に晒されている感じで

なにしろ、周りの目が過剰に意識されるんだ

黒沼高校の在校生徒からすれば、私たちはいわば招かざる客なんだろう

そこへ持ってきて、私はコテコテの”別格”だったようだし…

やれ黒沼のモテ男を独占してる、やれ南玉だ紅組だかのトップどころと裏で通じてるとかって…

フン、何様のつもりだ、お前はって…

そういう冷ややかな視線を浴びてる感じだったよ

みんなは夏にも関わらず、分厚い衣をまとっているのに、私だけ丸裸でその視線の的だ

はっきり言ってコワかったよ


...



しかし、今はその視線に免疫ができた

正確には、備わったのは抗体だと思う

「横田さーん!」

「大月さん、お疲れさま。はは、今日もよろしくね」

「こちらこそ。あのね、矢吹先輩から伝言を預かってるの。合同練習の前に時間あったら、部室に顔出して欲しいって」

相川先輩からも伝言もらっていたし、今日はどっちみち伺うつもりだったんだけど、さっそく先輩からお誘いだわ

「そう…。じゃあ、まだ早いし、これから行ってみるよ」

「ええ、お願い。ああ、横田さん…、今回はウチのバカ女達がしでかしたそうで…。同じ黒沼生として、あなたには申し訳ないよ。許してね」

「そんな…、いいんだってば。なにも大月さんに謝ってもらうことじゃないし、それに”彼女”らへの恨みつらみは消えたよ。例の二人にはさ、今日にでも会って話しするつもりだよ。まあ、いろいろ気にかけてくれてありがとうね」

大月さんは、にっこり笑って小刻みに頷いてた


...



その後、黒沼高空手部の部室へと足を運んだ

「失礼します!」

矢吹先輩らしき声で返事が返ってきたので、引き戸を開けると…、ありゃ、3人いる…

「横田さん、練習前に悪いわね。テツヤから聞いてたんで、この二人、呼んどいたの。こいつらには下話は済ませてるから、練習の時間削られない程度に手短かでいいわ。とりあえず、私はトイレ行ってくるんで…。まあ、そこかけてお話ししててくれる?」

いやあ…、すでにセッティング済ってことか…(苦笑)

「ああ、先輩、お手数おかけしてすいません。じゃあ、話しは始めておきますんで…」

矢吹先輩は優しい顔で頷くと、部室を出て行ったわ


...



「あのう…、ごめんなさい!私たち…、とんでもないことをあなた達にしてしまって…」

「本当に、何て謝ったらいいのか…。簡単には許してくれないと思うけど、ごめんなさいね…」

おいおい…、いきなり二人は深く頭を下げて謝ってきたわ

しかも、すでに涙うかべてるよ、二人とも…

ひょっとして…

まさかとは思うが、一応確認しておくか