本当の悪役令嬢は?

 刹那、後ろからノエルがミリアンを抱きしめる。

「お馬鹿さん。俺はそばかすがあろうと黒髪だろうとミリアンが好きだよ。俺はミリアンの機転が利くところとか、諦めないところとか、あと、案外泣き虫なところとか――そういうところひっくるめて全部好きなんだ」

「ノエル……私が悪い子でも? 『悪役令嬢』でも好き?」
「『悪役令嬢』?」
 
 ノエル言葉にミリアンはこくんと頷く。
「だって私、貴方を逃がしてすぐに決められたセドリック王太子との婚約式から逃げ出しちゃったでしょう? きっと今頃はお父様は国王とセドリックに責められて、爵位剝奪とお取り潰しを宣告されているわ。親を裏切ったのよ」

「オベール家はもう、あの義父が爵位を継いでから落ちぶれる一方だった。崩壊がちょっと早くなっただけさ。ミリアンはきっと義父からしたら『悪役令嬢』だろうけども、俺にとっては最愛の女性だから」

「……ノエル、ありがとう」
 ミリアンは瞼を閉じながら、ノエルにそっと寄りかかる。
 
 既にエセラ国に住処を用意してある。
 二人、ドレスやアクセサリーを売って投資した商売が軌道に乗っている。
 
 今ではちょっとした小金持ちだ。信用のある使用人を雇い家の管理を任せている。

「これからは俺は『エルド』ミリアンは『アンナ』だ。屋敷の主は『ベル』家」
「貴方は『エルド・ベル』で私は『アンナ・ベル』になるのね」
「うん、夫婦として暮らすんだ」

 ノエル――エルドの言葉にアンナになったミリアンは頬を染めた。