本当の悪役令嬢は?

◇ ◇ ◇

 それから三日後、アドリーヌはオベール家から除名。婚約破棄のあと、身一つで国外へ追放されることとなった。
 代わり、次女のミリアン・オベールとセドリック王太子の婚約を執りなおす。
 それによってオベール家は爵位剝奪を免れた。




 ペルリアン国の隣、エセラ国の長閑な道なりを一組のカップルが馬に乗って、のんびりと王都に向かって闊歩している。
 
 馬に乗っているのは、ノエルとミリアンであった。
 ノエルは髪を切って男の姿でいるため、アドリーヌの面影など見当たらない。
 ミリアンは髪を黒く染め髪を三つ編みにし、また顔にそばかすを描いていた。

「こんなにうまくいくなんて」
 ふふ、とミリアンがノエルに向かって微笑む。
「あっさりと出られただろう? 国境を守る兵士ももう、愛国心とか王に忠誠心とかないのさ。金を握らせばすぐに通らせてくれる――でも」
 
 ミリアンの顔をのぞき見したノエルは、楽しそうに笑う。
 その顔はもう一人の男性で、笑い声もアドリーヌに扮装しているときのようなプライドで塗り固められた甲高い声ではない。男らしさがあり、また朗らかだ。

「髪を染めて化粧を変えただけで、ミリアンがこんなに変わるなんて思わなかった」

「ふふ」とミリアンは笑うと、鼻の周辺につけたそばかすをそっと撫でる。
「魔女に作ってもらったのよ。『魅了を隠してしまう魔法』が籠められたペンなの。こうすれば必要以上に男たちはよってこないはずだわ。それに変装にもなるし」
 
 そうノエルに言ってしばらく間を置いてから、泣きそうにミリアンは呟いた。

「……ノエルは、そばかすの私は嫌い?――っ!?」