本当の悪役令嬢は?

「ごめんな。貴族の男たちに愛想を振りまくの、嫌だったろう」
「ううん、平気。だってノエルのためだもん。ノエルだけだった、私のこと本当に気を掛けてくれる人って」
 
 見目もよく、仕立てのよいドレスを着て髪も整えたミリアンは、それだけで人を寄せ付けた。
 アドリーヌに扮したノエルと仲が険悪になっていたセドリックも、あっという間にミリアンに心酔するようになり、他の子息と一緒になって彼女の周りにひっついていた。
 
 さらに険悪になるようノエルはアドリーヌらしく「貴族の嗜み」というものを厳しく教え、セドリック含む取り巻きの印象を悪くさせたのだ。
 
 ミリアンにどんどん傾倒していくセドリックだったが、アドリーヌのことも惜しいと思ったのか「妹への虐めをいさめる」という名目で何度か会って、お叱りというお触りがあった。
 
 まさか「姉妹を攻略」するつもりか? と震えたノエルとミリアンは『重罪』覚悟で『服毒未遂事件』を起こしたのだ。

「有力貴族であるオベール家の娘だから『極刑』はないだろうとふんでのことだったけれど……さすが身ごもった母親を捨てただけあってクソ親父だったわ。ここでノエルを断頭台で消えてもらえば、アドリーヌは生きていると王族を騙していることもなかったことになるし、血のつながった私に婚約が回ってくると思って陛下に進言したのよ。きっとしおらしく王の忠臣の顔をして『愚かな娘が陛下や王太子殿下に心労をかけさせた、これは死罪にあたるでしょう』とかなんとか言って」

 三年前に『おまえの父だよ』と目の前に現れたオベール侯爵に父親への情なんてない。
 ついてきたのは母が病死して、いよいよ自分の体を売らなくては生きていけない経済状況に陥っていたからだ。
 
 自分を高級娼婦にしようと教育を施す嫌な母親だったけれど、高く売ろうと男たちに近づけようとしなかったし、指一本触れさせようとしなかった。それだけは感謝している。
 
 男を虜にする話し方、仕草、体の手入れなどは今回の『悪役令嬢の姉に虐められる聖女のような妹』を演じるのにとても役に立った。

「本当に『極刑』にならなくてよかった……」
 ミリアンは涙ぐむ。そんな彼女にノエルは柔らかなラベンダーピンク色の髪を一房取り、キスを落とす。

「おそらく、新しい僕の刑は『国外追放』になるだろう。そうしたら――」
「ええ……計画通りに……うまくいくかしら……?」
「大丈夫さ、絶対に。この計画のために二年前から準備をしてきたんだ」

 ノエルとミリアンはひし、と互いを抱きしめ合った。